逢魔の扉を前にして

       “邂逅”

 


     




少年誌掲載のダークファンタジー漫画が原作の実写化ドラマ。
一応は現代劇だが、負世界から這い出しかけている怪しい軍勢が相手の活劇で。
怪物のような咒獣や、物理を超えた術式という魔法を操る魔人などとの
生死を賭けた壮絶な戦いが繰り広げられるという
それはスリリングな展開が連綿と続くし、
どこか特異な立場にある登場人物たちの人間関係も切なかったりと、
思えば様々な層の感受性へ巧みに擦っていた作品でもあったよで。
そんな作品を、当代を代表しそうなイケメン俳優たちが
魅惑的に斬新に大胆に演じ切ってしまったものだから、
視聴率だけではなく、話題性でも延々と人気を博し続けており。
都会派ドラマなら何でもこなせる、長身で所作もシャープな美丈夫様、
知的で魅惑的でもある風貌が、
主には女性層の嗜好を巧みに鷲掴んでいる太宰治に、
切れ長な双眸にそぐう鋭角的な美貌、
大胆な活劇を鮮烈に華麗にこなせる技巧派だが、
決して俺様じゃあなく、気のいい兄ポジのハリウッド俳優、中原中也。
静謐で大人びた雰囲気が、舞台では重厚な存在感をたたえてやまず、
ドラマでは物静かな役柄が多いものの、
苛烈な怒りをたたえた殺陣も鮮やかにこなせる俊英、芥川龍之介、という、
いずれも個性的な人気者たちが集ってのその上、
しっかりと作り込まれたドラマ展開がさまざまな層からの後押しを受けて、
気が付けば2年連続、問答無用の大ヒット。
(参照:サブスクのリクエスト数&再放映の視聴率、円盤の売り上げ高の集計値 etc.)
主人公がほぼほぼ無名の少年だったのにというところも異色で、
本来は特撮ものなどで主人公が変身した後の姿を演じる“スーツアクター”志望の少年。
まだまだ少年の柔らかな線で縁取られたあどけないお顔、
銀髪に宝石のような双眸と、一見すると淡い色合いの風貌はいっそ可憐で、
頭からすっぽりと変身後の姿でおおわれて露出されないのがもったいないくらい。
だってのに身軽で勘もよく、
活劇はお任せだし、持久力も回復力も中原中也の仕込みで怪物級と来て。
素性が広まってないというポイントはいっそシークレットな要素を強めようと、
監督陣のみならず、スタッフたちも諸手を挙げてオファーを決めた逸物であり。

 そんな主役の青年たちには、
 実は彼らにだけ共有されている “とある秘密”があったりする。



ヒット作の番外編というか、前日譚となる劇場版を撮影中の彼らであり、
その撮影もいよいよの終盤。
岩場や森林などを背景としたカットを撮るため、
郊外での最後の撮影合宿と運び、
朝食を済ませてのちの、体均しの散策の途中に、
いきなりなだれ込んだ珍妙奇怪な流れ。
確かに自分たちの足で駆けこんだ先のはずが、
何だかよく判らない状況へと引きずり込まれたその上、
翻弄されるよに自分たちをそこへと導いた敦少年から
問答無用的に引き離されてしまったものの、

 『そこの客人らとともに広間で待て。』

場の主導権を握っておいでだった人物に、
色々と思ったり感じたものがあった彼らでもあって。

 “何だか有無をも言わせない威容があったし。”

刃や銃をかざされたわけじゃあない、威嚇的な視線を飛ばされたわけでもない。
ただ、
人ならぬ存在ぽい迫力というものか、
この場の主人と言わんばかりの存在感に圧倒されたようなもの。

  それに

意識がないものか、全身あちこち満身創痍という痛々しい状態、
尋常ではない容態の存在が天空から忽然と現れたという
彼らへもただならぬ緊急事態であったようで。
それへ不用意に水を差すのも忍ばれて、そちらを優先しただけ、
悪いようにはされなかろうと感じて流されたようなもの。
もしかして暗示か何かかけられたのかもしれないが、
それでなくとも不思議空間、下手な抵抗して迷子になるのも…と、
此処は抵抗しない方が吉と読んだまで。
敦少年を人質に取られてもいるし…というのは
あとから思ったことだったけど。(おいおい)

 「こちらへ。」

その敦少年にそっくりな人物から、
特に話しかけられることもなく導かれたのは、
こちらも以前滞在していた敷地内には見覚えのない棟である。
石積みのしっかりとした建物で、
渡り廊下のような、庇のある回廊を通って廊下に入った先、
案内されたのはつややかな石床のなかなかに豪華な広間であり。
がっしりとした円柱に支えられた天井はドーム状で、
しいて言えば唐風なのだろうか、
籐編みの床几や、座面に細やかな刺繍のほどこされた椅子、
曲円の優美な卓やチェストといった調度が並べられ。
壁に居並ぶ窓はガラス張りではあるが観音開きと、
どう見ても日本の様式とは思えぬものの、
此処へと案内してくれたのは、瞳や髪の色やらがちょっと変わってはいるが、
面差しなどは日本人らしき青年たちだし、

 「…此処ってまさか。」
 「“そう”らしいな。」

彼らの装束や口利き、何よりその互いへの呼び名にハッとし、
自分たちは絵という格好でしか接してはなかったが、
これってまさか“あの話”の大元の世界では?と察しがつく兄たちで。

 「あれって、君が演じてる“槇の中将”だよな。」
 「みてぇだな。」

思ってた以上に尊大で素っ気なく、
可愛がっているはずな暁少年へもかなりの塩対応。
それでもこの 暁という子は従順に対していたし、怯えや反抗の気配は一切なくて。
敢えて言うなら信奉と恭順、そういうしっかとした信頼あっての間柄だと判る。

 「まあ、今更演じ変えするつもりはねぇが。」

ごくごく普通の一般人なら、こんな事態へ巻き込まれ、混乱してしまうところだろうが、
この場に居ない末の弟分以外の3人とも、いやに落ち着いているのは、
こういった非常識事態に、嬉しくはないが覚えがある身でもあったからに他ならぬ。
ボタン操作一つで出来ることが色々と増えたし、
かつては諦めるしかなかったような事態への救済策もあれこれ見つかっている…とはいえ、
科学や工学が進んではいても、それでも基本は物理の次界。
機工がなければ、電力がなければ成立しない、機巧の構築された世界に生を置く彼らだが、

 実を言えば、今の生の一つ前、
 やはり同じ顔触れで駆け抜けた世界で、
 術式とやらにほど近い“不可思議”と共存していた覚えがあって。


  ___ 異能に翻弄されたかつてを思えば
      今の身が異能なしでも様々に対抗策は講じられようさ。




     ◇◇


一方で

高い高い中空から滲み出し、そこからゆっくりと降りてきた人物。
よほどに重いダメージを負っているものか、
閉ざされた双眸が開く気配はなく。
かすかに呼吸を続けてはいるが、
がっつり着込んだ導師服がほどけぬようでは手当てのしようもないところ、

  だったのだが

不思議な膜に敦だけが弾かれないのは、

 “咒力を持たないから…だろうな。”

槇の中将様も勘づいていることがあり。
そもそもの馴染みがある少年とそっくりでありながら
衣紋も雰囲気も随分と異なる此方の少年を
廊下を歩みつつという道中、無遠慮にもじろじろと見やる。
意識のない武装した男を懐へ大事に抱え、だがだが、
勝手の判らない事態に翻弄されているのだから、やや及び腰なのは仕方がない。
そう、この子も後の3人も、
どういうはずみでか別の次界からやってきた存在だと彼には判る。
自身がこの次界の真っ当な “あらひと”ではないからだが、それはともかく、

 “…この和子。暁と混ざってしもうた童だな。”

別の次界から送られてきた“取り替え児”。
生まれた地に居ては危険だからと、そこから隠すことを目的に、
器の居所だった此処へ意識を残し、
交換されたもう一人は元居た獣神界へ戻すはずが、
だが、取り換え先ではなく、別の次界へ向かってしまったため、
中身や性質がやや歪んでしまっている。
何らかの妨害のせいで神獣世界に戻れず、
別の人世界へ流れた結果だろうとあたりをつけつつ、

 「その寝台へ。」

今は重傷者らしき男の手当てに集中することにする。
術式で辿り着いた離れの部屋は、室内へも天幕を巡らせたやや薄暗い空間だが、
中央に置かれた堅い木組みの寝台は、白い晒布が敷かれていてがっしりと重厚で。
指示されるまま、出来るだけそおっと抱えてきた怪我人の青年をそこへと下した敦へ、

「まずは浄化だな。」

こちらへと、寝台から離れるように肩を強引に引っ張り、
少年がたたらを踏みかかるのにも構わず、
狩衣のような衣紋が風鳴りを起こす勢いで宙へ印を切ると、
空間が割れて、大人の頭ほどの大きさの石造りの泉水が現れる。

「両手を、肘までゆすげ。」

指示されたとおり、泉水で埃をぬぐい、
続いて渡された綿の手巾を水へと浸すと、
軽く絞って寝台のそばへ戻る。
そおと手を伸べ、男の顔の傷へ触れさせればそれが浄化になるようで、
痛々しかった傷がやや薄れた気がして。

 “…ああ。このお顔だ。”

広大な草原を吹き渡る大風の咆哮も、
天空を裂くように駆ける白銀の稲光も、
兄様の身にしっかとしがみついていれば怖くなかった。
大きなててで背を支えてくださったから、
大丈夫だよと低くて柔らかなお声で言うて下さったから。
何も怖くはなかったのを思い出す。
そんな想いを胸ににじませている敦へ、

「てのひらを上へ向けて開いてみよ。」

言われるままに従えば、そこへ触れない近さで何やら印を描く赤毛の彼で。
途端にじわりと何かの熱が伝わってくる。
その手を掴み取られ、
平たい宝石のはまったバングルのような帯を手の甲へと巻かれ、
寝台の彼の懐ろの上へとかざされて、

「同じ印を、甲の上で切ってみよ。」

撮影中のドラマの中でもそういう所作が出てくるせいで、
敦としても馴染みもあっての辿るのはたやすく。

 「…あ。」

教わった咒を切って手の甲に熱を浸せば、
それがかざした相手へ伝わって、生気が満たされる。
烏の濡れ羽色とはこのことかと思った漆黒のつややかだった髪が、
どんどんとその色を薄めてゆき、
敦と差のないような淡い色合いに変わってゆく。
そこまですれば防御も緩んだものか、

「…うむ。内部には大きな瑕疵はないな。」

導師服の前をくつろげ、
自身の手のひらをかざしていた赤毛の導師殿が安堵の息をこぼした。
意識がないほどの重篤かと恐れたことでの強硬治療だったが、
自分でも防御の咒をかけていたらしいと、
露出されていたが故の顔や四肢以外には深い打撃もないことへホッとし、

 “咒力が切れただけであったか。”

それだって結構危険な話で、しかも本来の居場所ではない次界へ放り出されてもいたのだ、
こちらの受け入れが万全ではなかったなら、一体どうなっていたことか。

 “このような無体を仕掛けるとは、
  向こう側でも結構な混乱が生じてはいたらしいが。”

本来そんなところがあることにさえ気づけないほどに隔たった異界。
咒の力があるが故、感じ取ることは出来たとしても、
そちらとこちらを区切る障壁はなかなかに強固で、
次界を越えさせるには並々ならない術式や咒力がいるはず。
それを振り絞ってでもこの彼を追い出したかったらしいが、それって…と。
どれほどの浅慮をやらかしているかにだろう、苦笑がついついこぼれた中将殿。

 “そこを食い破らんとする脅威と相対していたのだ。
  見事に追い払えた存在を用無しと見做すとはな。”

まま、そんな身勝手で阿呆な輩なぞ案じてやる必要もなし。
しばらくほど気の充填の仕儀を続けていたが、

 「あ…。」

こちらに現れてからこっち、ひくりとも動かなんだものが、
胸元が緩く持ち上がって、そのまま静かに下がっての、
見るからに深々とした息を一つつく。
今初めて呼吸を思い出したと、
そんな態だった男がゆっくりと瞼を上げて、
自分の間近にいた敦に目をやると、

 「…あ、かつき、か? ……いや、敦だな。」

掠れた声がそんな言いようを紡ぎ、
手当てを続けていた少年がはっと顔を上げたその先。
端正な顔容の中、冴えた生気があふれた双眸がこちらを見つめている。
紫の瞳は、敦と似ていて宝珠のように澄んでおり。
柔らかな線で織り出された面差しは凛然としているが笑みは嫋やか。
色素の薄い肌と言い、淡色の髪と言い、
敦と似通った風貌をしていて、

 「あ…。」

意識が戻った相手は、知っている人のはずがだが…
どうしてか名前が出てこなくて敦も困惑。
かけがえのない大事な大事な兄である人、
だけれど、胸の裡と頭の蓄えた意識とが上手くつながらないような。
もどかしくてたまらず、泣くに泣けない目許が駄々っ子のようにゆがみかかる。
そんな少年へ、

「大事なつながりがあるのは判るが、いろいろ抜け落ちている。そうなのだろう?」
「…あ。」

ふふと同座している大人二人がよく似た色合いでほほ笑んだ。
彼らのほうがようよう判っているようで、
ゆっくり身を起こす男性に気づいて、助けにと腕を差し伸べれば、
ゆるりと目を細めて微笑ってくれるお顔が何とも嬉しい。
睦まじく見やり合う二人に、

「ちょっと待っておれ。」

赤い髪の導師がぱちんと指を鳴らすと、
何もない中空からぱっと人が現れて。

「え?」

強引に呼ばれたか、現れた側もぎょっとした顔でいたが
トンと難なく床へ降り立ち、周りを見回してから、寝台に気が付く。

「…あ。」

驚いたような、それでいて何かしら迷う顔。
すぐそばに引き寄せられている敦を見やって困ったように眉を寄せるので。
そこに上体を起こして座していた男性、
ああと柔らかに表情がほどけて、凛々しいお顔にそれは優しい笑みが浮かぶ。

「すまんな。私たちの勝手でお前たちに難儀をかけた。」

敦の背へと添えていた側ではない、もう一方の腕を伸ばし、
後から現れた小袖姿の少年がそろそろと近づけば、その腕をそおと取る。

「行方と力を隠すため、二人に分けることとなったが、
 敦も 暁も、ともに私の大事な弟だ。」







  to be continued.(26.05.12.〜)




BACK/ NEXT


 *ずんと昔、
  四神をモチーフにしたファンタジーもどきを書いてたのを思い出しました。
  そのせいか筆が乗る乗る。
  脱線しまくっててすいません。笑